カスカウィンのよくある質問
テキーラと呼ばれる飲み物には、大きく分けて二つの分類があります。ミクスト・テキーラと100%アガベ・テキーラです。いわゆる罰ゲームの一気飲みという従来のイメージのテキーラとして使われることが多いのが前者のミクスト・テキーラであるのに対して、後者の100%アガベ・テキーラは、欧米や日本ではプレミアム・テキーラなどという呼称で呼ばれることも多く、ストレートやロック・スタイルでゆっくりじっくりと香りと味わいを愉しみながら飲まれるお酒です。
両者の決定的な違いはその名称からも分かる通り、100%アガベ・テキーラには原材料であるアガベ(=和名リュウゼツラン)が100%使われているのに対して、ミクスト・テキーラには51%のアガベが用いられ、残りの49%についてはサトウキビやトウモロコシが原材料として使われているという点です。
アガベという作物が他のお酒の原材料と異なる点として、1年では収穫できないということが挙げられます。例えば、米、ブドウ、麦、サトウキビ等は殆ど全てが1年で収穫される作物です。これに対して、アガベは最低でも5年、長いものとなると10年以上の期間をかけて生育されます。その結果、当然ながら他のお酒の原材料と比較した場合に、テキーラの原材であるアガベはお値段も高くなってくるのです。また、アガベがテキーラの原材料として以外の用途を殆ど持たないという点も、価格を押し上げる要因になっているものと考えられます(食用としても通常は用いられません)。さらには、世界的なテキーラ人気の影響もあり、アガベ不足とそれに伴うアガベの価格高騰は、メキシコのテキーラ業界でも大きな問題となっているようです。
そんなアガベを100%用いた100%アガベ・テキーラは、いわば純米吟醸酒のような位置づけのお酒ですので、原材料の風味も香りも通常のテキーラとは格段に異なります。もちろん、ミクスト・テキーラにも伝統的な製法を用いて、原材料の配合を考え抜いて作られた高品質のものも多々存在しますが、そもそもの原材料が異なるという点では、味わいも香りも、さらには二日酔いへの影響に至るまで、両者は大きく異なった性質の飲み物であるということが言えます。
また、テキーラには原産地呼称と呼ばれる厳しいルールがあり、CRT(テキーラ規制委員会)という組織が、このルールに沿って各蒸留所の原材料から生産工程、製品の品質までを厳格にチェックしています。100%アガベ・テキーラと呼ばれるためには、この厳しい基準をクリアしたメキシコ国内栽培のアガベを100%用いるのと同時に、ボトリングまでもメキシコのハリスコ州近隣で行わなければならない、といったより厳格なルールが適用されています。
テキーラには原産地呼称に基づく厳格なルールが適用され、CRT(テキーラ規制委員会)による厳しいチェックを受けている点は先述の通りですが、このルールの一つとして、テキーラの産地の規制があります。テキーラはメキシコ国内でも、ハリスコ州、グアナファト州、ミチョアカン州、ナヤリ州、タマウリパス州の五つの州のいずれかで生産される必要があるのです。この五つの州を、テキーラ5州などとも称します。中でも9割近くのテキーラを産しているのがハリスコ州です。テキーラというお酒の名前の由来となったテキーラ地区も、このハリスコ州の中に位置します。
ハリスコ州の中心に位置するのが、メキシコ第二の都市であるグアダラハラです。このグアダラハラ市を中心に、西にバジェス地方、東にロスアルトス地方というテキーラの二大産地が存在します。テキーラにもこうしたテロワールが存在し、それぞれに異なった特徴を持っているのです。バジェス地方は、テキーラ地区が位置することからも分かるように伝統的なテキーラの産地であるのに対して、ロスアルトス地方は、テキーラ界のナパ・バレーなどとも呼ばれ、パトロンやドン・フリオといったプレミアム・テキーラの代名詞ともいえるブランドを産するアトトニルコ地区等を含む、比較的に新興のテキーラの産地です。
バジェス地方では、痩せた火山灰の土地と多様なミネラルを含む水とが特徴で、小ぶりのアガベのピニャ(アガベの根茎部で、テキーラの原材料となる部位です)を使用し、皮の辛味の成分や芯の苦味の成分を残した伝統的なテキーラが作られる傾向にあります。これに対して、ロスアルトス地方では、肥沃な赤土で長期間アガベを生育させ、大きなピニャの皮と芯とを贅沢に削り、甘味を際立たせたスムースなテキーラが作られる傾向があると言われています。また、テキーラの熟成に際しては、バジェス地方では新樽が、ロスアルトス地方ではバーボンやコニャック、シェリー等の中古樽が好まれる傾向があります。
カスカウィン蒸留所は、バジェス地方のエル・アレナル地区にある蒸留所です。バジェス地方の中には、クエルボとサウザのあるテキーラ地区、エラドゥーラのあるアマティタン地区等、著名大手ブランド・テキーラを産出する地区が存在しますが、エル・アレナル地区は、伝統的なテキーラの製法を守り続ける小~中規模の蒸留所が多く、まだまだ世界的には知られざるテキーラ産地の一つであるといえます。
一部の大手ブランドがコスト・ダウンのためにディフューザーと呼ばれるアガベを加熱せずに生のまま搾汁する手法等を採用する等する中、エル・アレナル地区に位置するカスカウィン蒸留所では昔ながらのレンガ釜を用いた長時間の加熱を行うことで、アガベの甘みをじっくりと引き出す手法を守り続けています。世界的なテキーラ需要を考えた場合、大手のメーカーが大量生産を継続的に行う中で、ディフューザー等の新手法を用いることには一定の合理性はあるものの、アガベを長時間加熱した際の蜜のようなとろみないしはボディ感には欠け、また、ディフューザー特有のえぐみのようなものがこうしたタイプのテキーラには感じられます。そして、それらがいわゆる一般的な”テキーラ”へのイメージとなってしまっている感がありますが、伝統的な手法を守り続けているカスカウィン蒸留所を初めとするエル・アレナル地区のテキーラには、古きよき本来のテキーラの風味が息づいています。
蒸留酒といえば、ウィスキーやダーク・ラムの世界では樽熟成ということが一つの重要なファクターとなっています。対して、ウォッカやジンといったホワイト・スピリッツと呼ばれるタイプの蒸留酒は、一部を除いて樽熟成には馴染みにくいお酒とされています。この点、テキーラは熟成にも非熟成にも馴染みやすいお酒で、同じブランドの熟成ものと非熟成ものとを飲み比べるのもテキーラの愉しみ方の一つです。
まず、ブランコは原則として非熟成のタイプを指します。発酵過程を経てアルコール化したモストと呼ばれる原液が最低2回の蒸留を経て、加水してアルコール度数を調整することでブランコ・テキーラは完成します。その後、2ヶ月以上1年未満の熟成を経たものがレポサド、1年以上3年未満の熟成を経たものがアニェホと呼ばれます。レポサドは英語でrested、つまり休ませた、という意味でメキシコではこの中期熟成のタイプが最も人気があるとされています。ブランコのフレッシュなアガベ感と適度な樽感のいいとこどりのタイプと言えるでしょう。アニェホは英語ではagedに当たる語で、レポサドよりもさらに重厚でマイルドな樽の香味と風味を持ったものが多く、ウイスキーやダーク・ラムを好まれる方々にも人気のあるタイプです。さらに熟成を経たタイプとして、エクストラ・アニェホと呼ばれるクラスがありますが、基本的に気温が高く標高も高いメキシコの自然条件下ではエンジェルズ・シェアと呼ばれる揮発量が非常に多く、長く寝かせれば寝かせる程に歩留まりの関係で価格は高騰してしまいます。また、長く熟成させ過ぎた場合においては、原材料感、すなわちアガベ感が損なわれてしまうため、テキーラとしてのアイデンティティが失われることから、現地ではあまり好まれない傾向もあるといいます。また、アガベの生育期間も含めると、長期熟成によってしまうとお酒が出来上がるまでの期間が長くなり過ぎるということも、熟成期間を適度に抑える一つの理由になっていると考えられます。
こうした3種類のクラス(エクストラ・アニェホを加えれば4種類)に加えて、樽熟成によった場合いは、新樽と中古樽、新樽でもアメリカン・オークやフレンチ・オーク、ハンガリアン・オークの別、オークの樹齢による差異、中古樽であればバーボン樽かコニャック樽かシェリー樽かワイン樽か、また、それらの銘柄は何か、といった数えきれないバリエーションを持つお酒、それがテキーラです。
実はテキーラの度数は35度から55度までということがルールとして定められています。しかも、メキシコ国内の流通物であれば38度、国外輸出向けであれば40度というのが一般的です。つまり、巷でのイメージにあるような75度や90度のテキーラというものはこの世に存在しません。また、カスク・ストレングスのウイスキーであれば50度を超えるものも多く、75度のラムや97度のウォッカがあることに比べれば、蒸留酒の中ではテキーラは然程に強いお酒でもない、ということが言えるでしょう。
そして、本来はテキーラ、主に100%アガベ・テキーラは、他の蒸留酒と同じように味と香りをゆっくりじっくりと愉しみながら、ブランデーやグラッパのようなグラスでちびちびと飲む飲み物です。テキーラに限らず、40度近い度数のあるお酒を一気飲みで飲めば、悪酔いしてしまうのは致し方ないことです。しかも、ゆっくりと愉しむ分には、アガベという単一原料から作られる100%アガベ・テキーラは、悪酔いし難く、二日酔いもし難いお酒であるというのが、欧米でも日本のテキーラ愛好家の間でも、テキーラが支持される一つの理由となっています。
また、それでも度数の高いお酒は苦手な方は、各種のオーセンティックなカクテルでテキーラを愉しまれるのもよいでしょう。特に、100%アガベ・テキーラを用いたカクテルは、ミクスト・テキーラを用いた場合と比べて、テキーラ本来の香りの立ち方が全く異なったものとなります。
テキーラの中でも100%アガベ・テキーラは、プレミアム・テキーラなどとも呼ばれるように、従来より安いものではありません。メキシコ本国でも、どちらかといえばアッパー・クラスの飲み物として認識されています。さらには世界的なテキーラ人気もあり、原材料のアガベ不足によるアガベの価格高騰等、テキーラの価格は更に高まる気配すらあります。しかしながら他方で、こうしたテキーラ人気を受けて、イメージづくりのためにボトル等の外装に中身以上にお金をかけたり、広報やプロモーション、工場の近代化への投資といったコストが必要以上にテキーラそのものの価格に跳ね返ってきてしまっているということも否定できません。特に近年では、テキーラ人気に便乗し、アメリカの資本がメキシコの蒸留所に委託生産させている銘柄も多々存在します。この場合、当然ながら生産から流通までのコストは高くついてくることになります。
他方で、こうしたブランディングへの傾倒の故に、カラフルでユニークなボトルのテキーラが生まれ、それがテキーラの魅力の一つとなっているのも事実です。
この点、カスカウィンはボトルもシンプル・イズ・ベストにこだわり、製法においても伝統的かつのどかな手法を守り続けています。また、海外への輸出についても今回がほぼ初、ということもあり、余計な宣伝費等もかけることなく、カスカウィン蒸留所の自社ブランドとして淡々と伝統的なテキーラ作りに専念してきたブランドなのです。